人生を変えるダッチオーブン

赤津孝夫
 世の中ますます複雑になりせわしく面倒なことが多く、生き急ぐ人やら拝金主義がもてはやされ、はたして人生を謳歌しているのだろうかと思う。本来人が生きていくということは、自然と一体になりもっとシンプルだったはずだ。生きていく中で全ての人が少なくとも6時間おきに空腹になり、食べ物をどうしようか考えるのは太古の昔から変わらない。
 今は金さえあれば、近くのコンビニへ行けば瞬く間に満たされ、飢えを覚える人はいないはずだ。当たり前の日常が、実は本来人が生きていく力を削いでいるのではないだろうか。自らの血と肉になっていく食べ物を、単に腹を満たすだけの行為で終わらせるのは自殺行為とも考えられ不毛といえる。最近世間を騒がせる事件はどれも身勝手なものばかりで、社会性が欠如し思いやりが微塵も無く短絡的な犯罪が多い。人が成長していく過程で食事全般が軽んじられてきたことと関係がある気がする。一瞬でお金から食べ物にチェンジされると、作られた苦労、ありがたみも感じることなく終わっている。一杯のご飯がどれだけの時間と人の手間をかけ、卓越した技で作られてきたことを思うと、感謝の気持ちで粗末にできないはずだ。そして更に愛情をこめて調理される食事は、人間の根源である生きる力を育む重要な行為である。
 ヨーロッパからアメリカ大陸へ移り愛用されてきた万能調理器具であるダッチオーブンは、何百年にも渡って人々の生活を支えてきた歴史の重みがある。ファーストフードとは無縁な、厄介で手間がかかりスローで美味しい料理ができる無骨ながら器用な黒い道具だ。一旦この道具を知ると不思議な魔法にかかったよう虜になり、人生を変えた人が多い。 それゆえに別名ブラックマジックと恐れられている。人生をもっと豊かに楽しく家庭円満に過ごしたい人は、このブラックマジックにかかれば間違い無いといえる。
赤津孝夫赤津孝夫